コーナーR部材質を改善する大径角形鋼管製造方法
- 【要約】
【目的】 各コーナーR部材質の靭性低下の回復、残留応力の解消および断面コーナーR部を整形した大径厚肉角形鋼管の経済的、かつ、不均一熱処理歪のない角形鋼管の製造。
【構成】 プレス成形による冷間塑性加工で粗形成した、僅かに径の大きな厚肉角形鋼管を全体的に、かつ均一に約800 ℃近傍に加熱してから徐冷して、鋼材を焼鈍し、前記粗成形鋼管をロール成形により数%絞り、正規形状の鋼管断面を成形するようにした大径角形鋼管の製造方法。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】 帯鋼板、一枚鋼板または二枚鋼板を、それぞれ冷間プレス加工または/および冷間ロール成形加工により折曲げ、前記折り曲げ鋼板側縁を相互に突合せて閉空間を形成すると共に、その突合せ面を溶接して断面を僅かに大径角形に粗成形した単位長のワン・シームまたはツー・シームの大径角形鋼管を、約、800 ℃近傍に加熱した後、常温近くまで徐冷し、前記粗成形鋼管を1〜数段の仕上げ成形ロールに通して、外径を数%程度冷間により絞り加工し、仕上げ成形することを特徴とするコーナーR部材質を改善する大径角形鋼管製造方法。
- 【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱間圧延鋼板を冷間塑性加工により折り曲げ、その長手方向側縁を突合わせ溶接して継手を形成してなる大径粗成形角形鋼管を焼きなましをしてから、仕上げ成形加工を施すことにより、冷間成形加工に基づき生じたコーナーR部付近の鋼材の残留応力を除去し、あわせて鋼材の靭性劣化を改善すると共に、鋼管断面形の精度、長手軸方向の直線性を矯正して、均等で高品質な厚肉大径角形鋼管を製造するコーナーR部材質を改善する大径角形鋼管製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】断面係数が大きく、曲げ、捩じれに対し抵抗力が大きい特徴をかわれて最近、鉄骨構造物の柱材(コラム)として需要が伸びている厚肉大径角形鋼管の量産方法は、従来、連続成形法にしても個別成形法であっても、角形鋼管コーナーR部成形のために平坦ないし円弧状曲面の厚肉鋼板を冷間塑性加工または、熱間加工により略、90゜折曲げる工程が含まれている。たとえば、公知技術の【0003】(1) プレス成形によるツー・シーム大径角形鋼管(板厚16〜50mm)の成形ラインと前記ラインの各工程における被加工物の断面形状について例示すれば、工程順に説明して、■ 熱延厚肉一枚鋼板をレベラーかけて整形すると共に、開先加工機にかけてその両側縁を幅決めし、かつ開先加工を施す。その際の厚肉一枚鋼板の直角断面形は、幅が角形鋼管周長のほぼ、1/2 に規制され、その両側縁には、それぞれX形開先が施されている。長さ及び板厚は、もち論素材どおりである。
【0004】■ 前記一枚鋼板を加熱炉に挿入して均等に加熱し、その加熱温度が低下しないうちに成形プレスを通して熱間加工により、長手方向に沿って鋼板を、それぞれ、ほぼ90°折り曲げ成形し、その断面をコ字形、すなわち溝形鋼並みに加工して、冷却床で徐冷する。鋼材断面形は、その際、底辺が角形鋼管の一辺とほぼ、同じ長さで、両側脚の長さは角形鋼管の一辺の約1/2 である。望ましくは、両隅角部のRの大きさは相互に等しく、両側脚の長さを同一に成形する。
【0005】■ 一対の断面コ字形鋼材の各長手方向側縁開先部を相互に突き合わせ、断面をロ字形に形成して仮付け溶接機にかけ、それぞれの突合せ面部を仮付け溶接して粗成形鋼管を形成し同鋼管端面の突合せ端部に、それぞれタブを取り付ける。当該工程における角形鋼管断面は、たとえば、上下辺の中央に、それぞれシーム部が位置している。鋼板の折り曲げ工程における精度が、そのまま、粗成形角形鋼管断面の形状に影響する。
【0006】■ 前記粗成形鋼管を反転装置付き内面溶接機にかけて、内側の各開先突合せ部を案内にして、それぞれ上向きの積層本溶接を施す。片側の溶接が終了すると前記鋼管を、長手軸を中心にして180°回転し、反対側の内側の開先突合せ部を本溶接する。
■ 前記鋼管を反転装置付き外面溶接機にかけて、鋼管外側の各開先面部を、それぞれ本溶接する(溶接終了後、超音波探傷器を用い継手の検査をする)。
■ 断面および長手軸方向の矯正機にかけることにより、規格通りの大径厚肉角形鋼管を形成する。
■ 搬出テーブルに製品を受け入れる。
上記工法によるときは、鋼板の曲げ加工が熱間成形のために製品の精度を出し難いこと、また、ツー・シームのため、溶接加工に必要な資材・工数がかかり、コスト高になる。
【0007】(2) 次にロール成形工法によるワン・シーム大径角形鋼管(板厚16〜25mm)の成形ラインの一例を説明すれば、■ 熱間圧延コイルをアンコイラーにかけて巻き戻し、帯鋼板に整形すると共に、その両側縁に幅決めを行った後、複数段よりなる丸鋼管成形ロールにかけ、鋼板断面を公知の手段によって丸断面に成形し、その後工程で突合せ両側縁を高周波抵抗溶接して、ワン・シーム鋼管を形成する。
■ 同鋼管を加熱装置に通して連続加熱し、その加熱温度が低下する前に複数段よりなる角形鋼管成形ロールにかけて、丸鋼管を角形断面鋼管に成形し、引き続いて、冷却ゾーンに通して、徐冷する。
【0008】■ ほぼ、冷えたところで前記角形鋼管を走行切断機にかけ、長手軸方向に沿って所定寸法に切断する。
■ 上記の角形鋼管を矯正機にかけて、断面および長手方向歪の矯正をする。ことによって、製品を成形するのが、一般的であった。
上記したロール成形による従来方式の製法では、加工鋼管のサイズを変える場合、ラインの全体に亘ってロール交換を行う必要があるが、そのためのライン調整作業が長時間かかり、困難である。したがって、多種、少量生産製品の加工には適さない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述したような事情を背景にして開発されたもので、公知の折り曲げ成形工法により粗成形された角形鋼管を焼きなまし、鋼材の塑性加工に基づくコーナーR部付近の材質の残留応力を許容限度以下に抑え、靭性の劣化を回復して鋼管材質の機械的特性を改善した後、僅かな量だけ仕上げ(絞り)成形して鋼管断面を規格値どおりに成形すると共に、焼きなましにより生ずる長手軸方向歪を矯正し、均一、かつ、高品質な大径角形鋼管を成形する一方、従来工法が備える上記欠陥を解消する大径角形鋼管製造方法を提供することを目的とする。
【0010】また、本発明方法の別の目的は、鋼材の機械的性質が均一で、各コーナーR部付近の鋼材の機械的特性が良好な大径角形鋼管を経済的に製造することにある。さらに本発明方法の他の目的は、各コーナーR部の曲率半径を均一にし、各辺の平坦度を向上させることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述の目的を達成するために、以下に述べるとおりの各構成要件を具備する。
(1) 帯鋼板、一枚鋼板または二枚鋼板を、それぞれ冷間プレス加工または/および冷間ロール成形加工により折曲げ、前記折り曲げ鋼板側縁を相互に突合せて閉空間を形成すると共に、その突合せ面を溶接して断面を僅かに大径角形に粗成形した単位長の1シームまたは2シームの大径角形鋼管を、約、800 ℃近傍に加熱した後、常温近くまで徐冷し、前記粗成形鋼管を1〜数段の仕上げ成形ロールに通して、外径を数%程度冷間により絞り加工し、仕上げ成形することを特徴とするコーナーR部材質を改善する大径角形鋼管製造方法。
【0012】
【作用】市場に流通している大径角形鋼管について問題視されている材質的欠陥は、鋼管成形工程中の冷間塑性変形に基づく厚肉鋼管コーナーR部材質の靭性の低下、残留応力の増加等、局部材質の劣化による構造材としての弱体化である。また、公知の成形工法に内在する欠陥に基づく、製品の寸法公差のばらつきと、一旦成品になって了うと閉鎖断面故の矯正がきかない捩じれある角形鋼管になってしまう傾向がある。上述のような事情に鑑み、本発明方法では、■冷間塑性加工により折り曲げ部分を形成した鋼材の長手方向端縁を向かい合わせ、公知の工法により突合せ溶接して断面角形に粗成形した、1シームまたは2シームの単位長の大径角形鋼管を形成する。
【0013】■上記粗成形角形鋼管を長手軸方向に搬送しつつ加熱炉を通し、鋼管周面の回りに高温ガスを流通させて鋼管を全長にわたって略、均一に約、800 ℃(鋼材のA1 変態点以上でA3 変態点以下)近傍に加熱した後、冷炉または空冷等の手段により均一に徐冷して冷間塑性加工などに基づき生じた角形鋼管の各コーナーR部付近の鋼材の靭性の劣化の回復、コーナーR部分、その他継手部分の鋼板の残留応力の除去を図る。加熱炉を通過する鋼管は、そのため長手軸方向の全体に亘って均一条件の許に加熱、徐冷され、焼きなましが行われる。
【0014】■しかし鋼管断面材質が突合せ溶接継手付近で不均質なことに基づき、鋼管の熱処理後に、その長手軸方向に歪が生ずることがある。
■冷却後の粗成形角形鋼管は、一段当り僅かな圧下量よりなる複数段の成形ロールに通して、断面径を全段で1乃至10mm程度(数%)絞りを加え角形断面の仕上げ成形を行うと共に、鋼管長手軸方向の歪矯正を施す。これによって、粗成形した角形鋼管の各コーナーR部の曲率半径を均一にし、平坦面の精度を高めると共に、前述の熱処理加工において生じがちな鋼管材の歪みの矯正を行うことができる。
【0015】■上記の仕上げ成形は冷間塑性加工により行われるが、鋼管材に対する加工量が僅かであって、このために鋼管の各コーナーR部付近鋼材、その他部分の鋼材の靭性劣化、残留応力が改めて生ずることはない。また、上記仕上げ成形の加工量、1乃至10mmの絞り成形は前記鋼管材質の劣化をきたさぬ範囲内において施される。
■これにより、鋼管断面が矯正されて、各コーナーR部の曲率半径、各辺の平坦度が均一化され、また、長手軸方向の真直度が向上するなど、材質に欠陥がなく高品質で均一な大径角形鋼管が得られる。
【0016】
【実施例】以下に、本発明製造方法を実施する装置の一例を図面に沿って説明するが、右方法を実施する装置の具体的構成は、本出願当時における当業界の公知技術の範囲内で任意に部分的改変が可能であることに鑑みれば、格別の理由を示すことなしに本実施例の具体的説明のみに基づき、本発明製造方法の構成要件を限定して解釈することは許されない。
【0017】図1及び図2は、本発明製造方法を実施する大径角形鋼管の製造ラインの一例及び当該ラインの各工程に対応する被加工材断面形状を示す。図中、矢印は、本発明製法による被加工材の搬送方向、断面形状の変化の順序を示すものである。
【0018】工程順に、当該製造ラインおよび鋼板の形状を解説すると、■ 熱延コイルをアンコイラー1を通して帯状鋼板にし、開先加工機2をとおして、その両側縁を落して幅決めし、次いで開先を取る。鋼板材質は、たとえば、SM400A、SM400B、SM490B、SM490C、SM520B、C または非調質高張力鋼60Kgなどを使用するが、そのいずれの鋼材に対しても、所望の効果を期待することができる。本実施例の被加工鋼材はSM490A、鋼板厚は22mm、500 mm径角形鋼管である。
■ 開先加工した帯状鋼板を鋼板切断機3にかけ長手方向に沿って単位長さに切断して、一枚鋼板を成形する。第2図を参照して、その際の鋼板の直角断面形は、角形鋼管の外周を展開した長さLと同一の幅を有し、その両側縁には、それぞれX形開先形状が形成されている。もち論、板厚は、もとの通りである。
【0019】■ 前記一枚鋼板を成形プレス4に掛けて、角形鋼管の隅角部予定部分を、それぞれ、ほぼ、90°近くまで冷間塑性変形により折り曲げ、第2図を参照して、鋼材の断面形を、ほぼ五角形に似て、その一辺に開口を備え、前記開口幅がプレス曲げ型を抜き出せる最小幅になるよう粗成形した角形鋼材を構成する。角形鋼材断面の開口は、角形鋼管を構成する各平坦辺の一つの中央部に配置され、前記開口側縁は前述のようにX形開先形状に形成され、相互に突合せて溶接し、この部分に溶接継手を形成するようにされている。
■ 前記の粗成形角形鋼材を複数段よりなる断面成形ロールを具備する仮付け溶接機5に送り込んで、その直角断面を徐々に規格どおりの角形鋼管断面に近付けるように成形し、最終段の成形ロール(スクイズロール)で前記対向する開先形状のルート面をメタルタッチに接触させて角形鋼管断面を成形すると共に、タッチ面を相互に仮付け溶接して、角形断面形を決める。前記仮付け溶接は、連続でもスポット溶接でも良い。このときの、角形鋼管断面は、第2図示のとぉりである。
【0020】■ 単位の角形鋼管両端断面に存在する仮付け溶接部分に、それぞれタブを取り付ける。前記仮付け溶接角形鋼管を長手軸を中心にして回転し、内面溶接機6にかけて、内側の突合せ開先形状を案内にし鋼材突合せ部内面を上向き本積層溶接する。溶接加工の前後は、予めタブを被溶接対象としているから本体の溶接継手が安定したものとなり、溶接割れなどの欠陥を回避できる。
■ 上記内面溶接角形鋼管を長手軸を中心にして回転し、外面溶接機7にかけて、開先形状を案内にし鋼材突合せ部外面を上向き積層本溶接する。溶接加工の前後は、予めタブを被溶接対象とするから本体の溶接継手が安定したものとなり、溶接割れなどの欠陥を回避できる。
【0021】■ 前記角形鋼管を加熱炉8に挿入して、均等に約800 ℃(鋼材のA1 変態点以上でA3 変態点以下)近傍に加熱して、鋼板の冷間塑性変形に基づくコーナーR部の残留応力、靱性の劣化、突合せ溶接継手付近の残留熱応力などを除去または回復し、加熱炉から冷却床9に搬出して、均一に徐冷する。加熱炉の熱源、鋼管の加熱温度の上げ方、加熱鋼管の冷却手段などについては、従来公知、または本出願人が出願している各種の方法を採用することができる。
■ 残留応力などを取り除いた上記角形鋼管を、複数段よりなる仕上げ成形ロール10をとおして、その断面径を1乃至5mm冷間加工により絞り成形(数%)し、角形鋼管断面の各辺の平坦度、隅角部Rの均一化等の最終成形を施し、また、長さ方向加熱歪の矯正を行う。11は、製品搬出テーブルを示し、最終製品を受け入れる。
【0022】前記絞り(仕上げ)成形ロール10は、圧下量が僅かなこと段数が少ないこともあって、その冷間塑性成形によって、角形鋼管について再度、隅角部付近の鋼材の機械的強度の劣化、残留応力を発生させることはない。
【0023】
【発明の効果】本発明製造方法は、以上述べたとおりで、(1)粗成形の大径角形鋼管を加熱して徐冷却することにより、冷間塑性加工により生じたコーナーR部付近鋼材の残留応力が除去され、靭性を回復して、高品質の製品を製造することができる。
(2)従来方法では、プレス成形またはロール成形共、熱間成形を行っているため、精度が出せないが、本発明製造方法によれば、冷間により最終仕上げ成形を施しているため、熱間成形のものより精度の高い製品を製造することができる。
【0024】(3)プレス成形による従来工法では、熱間プレス成形時に鋼板を完全に四角に成形することが困難で、1シーム角形鋼管を製造することができず、2シーム方式の鋼管になるので、溶接工数、時間、資材が多くかかってコストを低減することができない。また、精度が出し難い。本発明製造方法によれば、冷間プレス成形により、1シーム方式が可能であるために、コストダウンが可能である。
(4)板厚16〜50mm程度の需要の多い、中、高層ビルに使用することができる大径角形鋼管の製造に適用することができる。
(5)ロール成形を採用した従来方式では、鋼管のサイズを変える場合にロール交換を行う必要があり、それに時間が掛かるために、サイズの多品種・少量生産には不適である。本発明製造方法中、鋼板のプレス成形の場合は、鋼管のサイズを変えることは簡単で、鋼管サイズの多品種・少量生産に対応することができる。など、公知の成形工法に比較して、格別の作用、効果を奏する。
- 【公開番号】特開平7−88545
【公開日】平成7年(1995)4月4日
【発明の名称】コーナーR部材質を改善する大径角形鋼管製造方法
- 【出願番号】特願平5−255226
【出願日】平成5年(1993)9月20日
【出願人】
【識別番号】000110446
【氏名又は名称】ナカジマ鋼管株式会社
- 【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 浩一
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