地上子
- 【要約】
【目的】 地上子における共振回路の選択度の低下を防止する。
【構成】 共振回路1の同調コイルL3の下部に高透磁率材Fを敷設し、高透磁率材Fで地上子下部の金属体による影響を抑えることにより、共振回路1の選択度Q値の低下を防止する。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】 共振回路と、高透磁率材とを有する地上子であって、共振回路は、同調コイルとコンデンサとからなり、共振現象を生じるものであり、高透磁率材は、前記共振回路の同調コイル下部に敷設され、地上子下部の金属体による共振回路の選択度(Q)低下を防止するものであることを特徴とする地上子。
【請求項2】 前記高透磁率材は、前記同調コイルと一体にモールド成型されたものであることを特徴とする請求項1に記載の地上子。
【請求項3】 前記高透磁率材は、フェライトから構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の地上子。
- 【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動列車停止装置(ATS),自動列車制御装置(ATC),自動列車運転装置(ATO)あるいは車内警報などに用いる地上子に関する。
【0002】
【従来の技術】ATSは、地上信号機の条件を示す地上の部分(地上装置)と、地上の条件を図8にATS地上子の基本的な回路構成を示す。図8において、地上子Eは、同調コイルLと、2つのコンデンサC1,C2とを含む共振回路であり、両コンデンサC1,C2を切替えるスイッチSを設けたものである。スイッチSが閉(オン)のときには、同調コイルL1と両コンデンサC2との並列回路によって103KHzに共振する共振回路が構成される。103KHzの共振回路が形成された地上子E上を通常の列車の車上子Tが通過しても車上装置は何等の動作も行わないが、スイッチSが開(オフ)のときに、地上子Eは、同調コイルLとコンデンサC1とによって123KHzに共振する共振回路が構成され、この上を列車の車上子が通過すると、車上子Tのコイルと電磁結合し、車上装置の発振周波数は、Ziehen現象により、123KHzは、130KHzに変周され、リレー(図示略)が動作し、自動的にブレーキをかけて列車を停止させるものである。ちなみに、前記103KHzは、検測車の車上装置を動作させるための共振周波数である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、地上子の共振回路における選択度(Q)値は、地上子下部の金属体の影響を受けて低下する。一般にコンクリート枕木上やスラブ道床上に設置すると、Q値が数10%低下することが知られている。このため、地上子を枕木上に近接したり、スラブ道床に接着して設備することはできなかった。
【0004】本発明の目的は、磁束低下の少ないQ値低下を防止した地上子を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明に係る地上子は、共振回路と、高透磁率材とを有する地上子であって、共振回路は、同調コイルとコンデンサとからなり、共振現象を生じるものであり、高透磁率材は、前記共振回路の同調コイル下部に敷設され、地上子下部の金属体による共振回路の選択度(Q)低下を防止するものである。
【0006】また、前記高透磁率材は、前記同調コイルと一体にモールド成型されたものである。
【0007】また、前記高透磁率材は、フェライトから構成されたものである。
【0008】
【作用】共振回路の同調コイル下部に高透磁率材を敷設し、該高透磁率材で地上子下部の金属体による影響を抑えることにより、共振回路の選択度Q値の低下を防止する。
【0009】
【実施例】以下に本発明をATSの地上子に適用した場合の実施例を図によって説明する。図1において、本発明に係る地上子Eは、共振回路1と、半導体スイッチ素子2と、制御入力回路3と、帰還発振回路4とを有している。
【0010】共振回路1は、同調コイルL3と、コンデンサC1又はコンデンサC2との組合せによって形成される回路である。同調コイルL3とコンデンサC1との組合せは、車上装置に動作指令を与える123KHzの共振周波数を発生させる回路であり、同調コイルL3にコンデンサC2が接続されたときには、通常の列車の車上装置は反応しない103KHzの共振周波数の共振回路を構成する。103KHzの共振周波数は、検測車の車上装置を動作させるための周波数であることは前述のとおりである。
【0011】さらに、共振回路1には図1〜図3に示すように高透磁率材Fが備え付けてある。実施例で高透磁率材Fは厚味4mmのフェライト板からなり、フェライト板Fは、後述の一対の誘導結合用コイルL1,L2を含めて同調コイルL3の下部に敷設されている。またコイルL1〜L3とフェライト板Fとは図2及び図3に示すように、一体にモールド成型されて一体構造になっている。また一部にモールドする際にガラスクロスGを介装して補強している。
【0012】半導体スイッチ素子2は、例えばフォト・MOSTであり、共振回路1の同調コイルL3とコンデンサC2間に組込まれ、制御入力回路3の信号を入力とし、同調コイルL3とコンデンサC1又はC2との組合せを切替えることにより、共振回路1の共振周波数を切替えるものである。尚、実施例では、半導体スイッチ素子2として2個のフォト・MOST2a,2bを用い、故障モードの短絡でも、停止現示値となるように考慮している。
【0013】制御入力回路3は、前記半導体スイッチ素子2に共振回路1の共振周波数を切替えるための制御指令信号を入力する回路である。制御指令信号は、構内の信号機の動作に連動して入力するものである。
【0014】帰還発振回路4は、共振回路1の同調コイルL3と誘導結合し、共振回路1の共振周波数に同調した周波数で常時帰還発振を行うものである。
【0015】図1に示す帰還発振回路4は、共振回路1の同調コイルL3に誘導結合させて組込んだ一対の誘導結合用コイルL1,L2と、発振用電源5から常時電源供給を受け、誘導結合用コイルL1を通して帰還させ、共振回路1の共振周波数に同調した周波数で帰還発振を行うものである。尚、本発明においては、帰還発振回路4の発振を監視して共振回路1の故障を検出する監視回路6を付加してもよい。以下、実施例では監視回路6を付加した回路構成のものについて説明する。
【0016】図1に示す実施例に係る帰還発振回路6は、以下の構成になっている。発振用電源5から電源供給を受けて駆動するトランジスタ4gは、自己調整機能をもった時定数回路をなす抵抗器4f及びコンデンサ4cをエミッタ側に有し、ベース側にはコンデンサ4aと誘導結合用コイルL2とからなる共振回路がコンデンサ4bを介して接続され、誘導結合用コイルL2は、共振回路1の同調コイルL3に誘導結合している。4d,4eは分圧用の抵抗器である。またトランジスタ4gのコレクト側には、トランス4hの2次側コイル4jとコンデンサ4iとからなるコレクタ同調形の共振回路が接続されている。また共振回路1の同調コイルL3に誘導結合した誘導結合用コイルL1は、トランス4hの一次側コイル4kに接続され、コイルL1とコイル4kとにより、共振回路1からコイル4j及びコンデンサ4iの共振回路への帰還回路を構成している。
【0017】さらに、本発明に係る帰還発振回路4は、コイルL1とコイル4kとからなる帰還回路に可変抵抗器7を有しており、可変抵抗器7により共振回路1からの帰還量を調整させている。
【0018】また図1に示す実施例に係る監視回路6は、トランス4hの一次側コイル4lに接続した整流回路6aと、整流回路6aの出力側に接続され、扛上接点6cから故障検知出力を発するリレー6bとからなっている。
【0019】実施例において、制御入力回路3の端子間に制御指令信号例えば、信号機の現示が進めである場合の信号が入力すると、半導体スイッチ素子2が導通し、共振回路1は、同調コイルL3と、コンデンサC2との組合せにより、103KHzの周波数の共振回路を構成し、通常の列車に対しては、地上子E上をそのまま通過させる。
【0020】制御指令信号の入力を断ったとき、例えば信号機の現示が停止に切替ったときに、半導体スイッチ素子2は非導通となり、共振回路1は、同調コイルL3と、コンデンサC1との組合せとなり、123KHzの共振周波数の回路に切替えられ、地上子E上を通過する通常の列車の車上子を動作させて制動指令が発せられ、列車を停車させる。
【0021】一方、帰還発振回路4は、誘導結合用コイルL1,L2が共振回路1の同調コイルL3に誘導結合しており、トランジスタ4gをONさせて誘導結合用コイルL1に電流を流すと、相互誘導結合している共振回路1の同調コイルL3に電圧が生じ、共振回路1には共振現象が発生し、半導体スイッチ素子2が導通状態では103KHzの共振周波数で共振し、半導体スイッチ素子2が非導通状態では123KHzの共振周波数で共振している。
【0022】また共振回路1の出力の一部は、コイルL1及びコイル4kを介してコイル4j及びコンデンサ4iの共振回路に帰還されており、コイル4j及びコンデンサ4iの共振回路は、共振回路1からの帰還を受けて、共振回路1の共振周波数(例えば103KHz,123KHz)に同調した周波数で常時帰還発振を行っている。
【0023】次にフェライト板を挿入しない従来の空心方式Bの地上子と、フェライト板を挿入した本発明のフェライト方式Aの地上子との比較を図4〜図7に示す。
【0024】図4,図5はコンクリート(PC)枕木による影響を調べたものであり、PC枕木に対する地上子の高さを変化させた場合の選択度Q値を比較してある。図5から明らかなように地上子をPC枕木に接着した場合に従来の地上子はQ低下が約40%であったが、本発明でのQ低下が約10%に抑えられていることがわかる。
【0025】図6,図7はスラブ道床による影響を調べたものであり、スラブ道床に対する地上子を高さを変化させて選択度Q値を比較してある。図7から明らかなように本発明は選択度Q値の低下がPC枕木と同様に約10%以内に抑えられていることがわかる。
【0026】以上の結果から明らかなように本発明は同調コイルL2の下部にフェライト板を敷設したため、共振回路1の選択度Qの低下が抑えられ、地上子の性能を向上させることが可能となる。また帰還発振回路4のコイルL1,L2の下部に渡ってフェライト板Fを敷設させることにより帰還発振回路4を用いて経年変化による共振回路1の選択度Qの低下を監視する際の精度を向上させることができる。
【0027】以上、実施例では本発明をATS(自動列車停止装置)の地上子に適用した例を説明したが、車内警報装置,自動列車制御装置,自動列車運転装置の地上子についても全く同様に適用できる。また、高透磁率材としてフェライトを用いたが、これ以外の高透磁率性を示す酸化鉄を用いてもよい。
【0028】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、コンクリート枕木を対象とした結果において、枕木に接着した場合でもQの低下は約10%であり、Qの低下を低く抑えることができ、地上子の性能を向上させることができ、しかも地上子の設置高さを低くすることができる。また枕木構造を変えて、地上子を枕木内に埋め込む構造としても鉄筋からの隔りが現状通りであれば問題はなく、地上子を枕木と一体に取扱うことができ、設置作業が容易となる。
- 【公開番号】特開平8−91217
【公開日】平成8年(1996)4月9日
【発明の名称】地上子
- 【出願番号】特願平6−228140
【出願日】平成6年(1994)9月22日
【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
【識別番号】000144348
【氏名又は名称】株式会社三工社
- 【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 中
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