ダイヤモンドドリルビット
- 【要約】
【課題】 下地への穴あけが短時間で可能であると共に合成樹脂製シートが敷設された下地への穴あけも可能なものを提供すること。
【解決手段】 セグメントAと台金Bとを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリット1を有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔3を有する金属棒であり、前記スリットにより台金の貫通孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状に形成する。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】セグメントと台金とを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリットを有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔を有する金属棒であり、前記スリットにより台金の貫通孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状であることを特徴とするダイヤモンドドリルビット。
【請求項2】セグメントと台金とを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリット並びに中心に冷却剤導入用の導入孔とを有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔を有する金属棒であり、前記スリットにより導入孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状であると共にセグメントの導入孔と台金の貫通孔とが連通していることを特徴とするダイヤモンドドリルビット。
【請求項3】略扇形状をしたスリットの縁が交差して作られる角度が15°から70°であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイヤモンドドリルビット。
- 【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はALC板やコンクリートなど建築物の下地に穴をあけるためのドリルビット、さらに詳しくは穴あけ速度が速く、また合成樹脂シートが積層された上記建築物の下地に穴をあけるのに好適なダイヤモンドドリルビットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、建築物の防水工事のひとつとしてシート防水工事が広く行われている。このシート防水工事において、防水シートを固定するための固定金具を設置する機械的固定工法を行う際に下地に穴をあける必要がある。その下地がALC板やコンクリートなどである場合には、この下地穴あけ工事は振動ドリル、ロータリーハンマードリルなどを用いるのが一般的である。これは鋼製のドリルビットを回転させながらドリル本体の振動、打撃をドリルビットへ伝えて穴をあけるものであるため、この方法では回転と同時に振動、打撃を与えるため作業時に大きな騒音を発生することになり、特に学校、病院などの改修工事のように現実に建物を使用している状態で工事を行う際に問題となった。
【0003】この振動、騒音の問題を解決する手段として穴をあける時に振動を与える必要のないダイヤモンドドリルを使う方法がある。ダイヤモンドリルによる穴あけの機構は、ダイヤモンドの砥粒を埋め込んだドリルを8000〜10000rpmで回転させながら、ドリル先端に設けた穴から冷却水や冷却剤を噴出させ、ドリル先端部を冷却しながら下地を切削し穴をあけるものである。この方法ではドリルの冷却や切削屑の排出が順調に行なわれれば振動や打撃を与えなくても下地に穴をあけることが可能となるので作業時における振動や騒音の問題が回避できる。
【0004】従来のダイヤモンドドリルは図4のように金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合した焼結体からなる円頭状のセグメントAに断面がほぼ長方形のスリット1を設けたものである。これはALC板やコンクリート単体に穴をあけることは可能であるが、穴あけにやや時間を要し、またALC板やコンクリートの表面に合成樹脂製のシートを敷設したものに穴をあけた場合に合成樹脂製シートの切削屑がスリットに詰まって冷却水の出口を塞ぎ、冷却ができなくなることでドリル先端が焼けて切削が不可能になるという欠点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ALC板やコンクリートからなる下地への穴あけが短時間で可能であり、また合成樹脂製シートが敷設されたALC板やコンクリートの下地への穴あけも可能なダイヤモンドドリルビットを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本発明が講じた手段は、請求項1においてはセグメントと台金とを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリットを有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔を有する金属棒であり、このスリットにより台金の貫通孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状に形成したことである。
【0007】また、請求項2においてはセグメントと台金とを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリット並びに中心に冷却剤導入用の導入孔とを有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔を有する金属棒であり、前記スリットにより導入孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状であると共に台金の貫通孔とセグメントの導入孔とを連通せしめたことである。
【0008】さらに、請求項3においては略扇形状をしたスリットの縁が交差して作られる角度が15°から70°に形成したことである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。セグメントAは粒度30〜60メッシュの人造ダイヤモンドをコバルト、鉄、ニッケル、銅などの金属粉末に対して、0.2〜0.7g/mlの割合で混合したものを所定の形状の型に入れ焼結して製造する。焼結の方法は600〜850℃の低温で30〜60分という長時間焼結する方法と、850〜1100℃の高温で10秒〜3分という短時間で焼結する方法が代表的なものであるが、他にこの中間の条件で焼結する方法もある。
【0010】人造ダイヤモンドの粒度は30〜60メッシュが好ましく、30メッシュ未満あるいは60メッシュを超えるものでは良い切削性が得られない。人造ダイヤモンドの混合割合は金属粉末に対して0.2〜0.7g/mlが好ましく、0.2g/ml未満では良い切削性が得られず、0.7g/mlを超えるものではセグメントAの強度が低下する。
【0011】セグメントAの形状はスリット1を有した円頭形状であり、このセグメントAの直径に制限はないが、シート防水工事においては4〜8mmのものが多く使われ、また、セグメントAの長さにも制限がないが、通常直径の1.5〜2.0倍程度である。ダイヤモンドドリルビットで穴あけを行う場合、セグメントAに冷却剤を供給する必要がある。そのためドリルビットにはその先端に冷却剤を導入するための孔を設けるが、効果的な冷却のためにはその孔の直径は概ねセグメントAの直径の1/5以上が適当である。
【0012】冷却剤供給のための孔の出口は開放されることが必要で、請求項1(図1、2)のように冷却剤供給のための孔がセグメントAに直接形成されておらずセグメントAの全体にスリット1を有する形式のものは、台金Bに形成された貫通孔3の出口がセグメントAのスリット1によって開放され、請求項2(図3)のように冷却剤供給のための孔となる導入孔2がセグメントAの中心部に形成されて先端部分にスリット1を有する形式のものは、その導入孔2とスリット1とが連通して導入孔2の出口をスリット1によって開放される。
【0013】スリット1は中心部近くが狭く、外側が広くなる形状すなわち外周縁が拡開した略扇形状であり、スリット1の縁4の延長線が交差する形状である。そのなかでも特にその交差角度が15°から70°であるものが切削屑の排出効率に優れて好ましく、交差角度が15°未満のものはそれ以上のものに比べて切削屑の排出効率が劣り、また交差角度が70°超では切削に関わるゼクメントの面積が減少するため切削能力が減少し、スリットの縁が鋭角となるためこの部分が破損、摩耗しなすくなる。
【0014】台金Bは鉄や鋼などのいわゆる金属製の棒状のもので、その略中心部に冷却剤導入用の貫通孔3を有していればその断面形状は円形に限らず多角形などでもよく、その外面は平滑でもネジ山が施されていても良い。その貫通孔3は上端部においてセグメントAのスリット1又は導入孔2と連通しており、貫通孔3を介して冷却剤をセグメントAのスリット1又は導入孔2へ供給するように形成されている。この台金BはセグメントAとねじ込みあるいは溶接などで一体化し、台金Bをドリルチャックにはさんだり、ドリルシャフトにネジ止めしたりなどして使用する。
【0015】
【実施例】本発明ドリルビットの製造法を具体的に説明する。コバルト、鉄、ニッケル、銅の金属粉末の混合物に、粒度50メッシュのダイアモンド砥粒を0.5mg/mlの割合で混合し、これを直径6mm、長さ10mm、スリットの縁の交差角度が15°、30°および70°となるセグメント金型に詰め、700℃で45分間焼結しセグメントを製造した。これとは別に、SUS S45C(ステンレス鋼製)の直径4mmの丸棒の中心に直径1.4mmの貫通孔を設けた台金を製造した。この台金と前記のセグメントとを銀ロウで接合しドリルビットとした。
【0016】このようにして製造したドリルビット(実施例1、2、3)および比較例として従来のドリルビットにおける各部分の寸法(大きさ)を表1に示す。
【表1】【0017】前記、実施例1、2、3のドリルビットと比較例のドリルビットとを用いて、幅が330mm、厚さが100mm、長さが600mmの道路用コンクリート製品であるところの2種普通ふた240(JIS A 5305)、および表面に厚さが1.5mmのポリ塩化ビニル樹脂製防水シートを接着したALC板に夫々穴をあけた。穴あけの条件はドリル回転数8000回/分とし、冷却剤としてメチルアルコールを約40%含む水を供給し、ドリルを手で保持し一定のドリルビットをコクリート製ふたおよびALC板に押し当て穴をあけた。
【0018】その結果(穴あけ時間、摩耗量、穴あけの可否)を表2に示す。
【表2】【0019】実施例1では実施例2に比べてやや長い穴あけ時間を要したが、これはスリットの縁の延長線が交差して作られる角度が30°の実施例2に対して15°と狭いため切削屑の排出にやや抵抗があるためと考えられる。実施例3では実施例2に比べて摩耗量が多いが、これはスリットの縁の延長線が交差して作られる角度が30°の実施例2に対して70°と広く、スリットの縁の角度が鋭いためこの部分が摩耗したものと考えられる。実施例2では穴あけ時間、摩耗量とも良好な値を示した。このように穴あけ時間、摩耗量に差はあるものの実施例においてはいずれも従来品である比較例に比べ穴あけ時間が大幅に向上した。
【0020】また、表面にポリ塩化ビニル樹脂製防水シートを敷設したALC板への穴あけの場合、実施例のドリルビットにおいては穴あけを行うことができたが、比較例のドリルビットではシート切削屑がスリットに詰まり、冷却不良のため穴あけができなかった。
【0021】
【発明の効果】本発明はセグメントと台金とを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリットを有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔を有する金属棒であり、前記スリットにより台金の貫通孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状に形成したことで、従来のドリルビットに比べコンクリート板への切削時間が約半分に短縮されたり、また樹脂を積層したコンクリート板への穴あけも可能となった。
【0022】本発明のドリルビットは従来のものと比べてスリットの形状が異なっており、スリットを設けたダイヤモンドドリルビットを用いて穴をあけると、発生する切削屑はまずスリット内の空間に入り、ついで外周に排出される。しかし、従来の断面がほぼ長方形のスリットの場合には、排出時の抵抗が大きく、切削屑によってスリットが目詰まりし、ドリルビット先端と切削対象物との間に切削屑が入り込んでドリルビットがスリップする状態となり有効な穴あけができなくなる場合がある。この現象は特に合成樹脂のような弾性体に穴をあけるときに著しく、弾性体の切削屑は排出されにくいため、スリット内に滞留し穴あけが不可能となった。
【0023】これに対し、本発明はスリットの縁の延長線が交差するいわゆる略扇形状のスリットを有しているため、スリット内の空間は中心から外周に向かって徐々に広がっていく構造となり、スリット内に入り込んだ切削屑の外部への排出抵抗が少なく、弾性体を切削しても切削屑が詰まることがない。スリットは切削屑の排出に適した形状であればよく、スリットの断面形状は必ずしも左右対称でなくてもよい。
【0024】また、本発明の請求項2はセグメントと台金とを一体化したドリルビットであって、セグメントは金属粉末とダイヤモンド砥粒とを混合焼結して製造したスリット並びに中心に冷却剤導入用の導入孔とを有する円頭状のものであると共に台金は中心に冷却剤導入用の貫通孔を有する金属棒であり、前記スリットにより導入孔の出口が開放され、かつスリットは外周縁が拡開した略扇形状であると共に台金の貫通孔とセグメントの導入孔とが連通しているから、切削能力が高く、高強度なドリルビットを提供することが可能となった。
【0025】スリットは切削屑の排出に作用するため、必ずしもセグメント全体いわゆる先端から末端まですべてに設ける必要はなく、穴あけに関与する先端部分だけに設けてもよい。ただし、この場合は冷却剤供給用の孔すなわち導入孔をセグメント中心にも設ける必要がある。この形態はとくにセグメントの直径が10mm以上の大径のものを制作する際に全体の強度を保持するのに有効である。
【0026】さらに、本発明の請求項3は略扇形状をしたスリットの縁が交差して作られる角度が15°から70°であるから切削能力が高く、高強度で摩耗しにくいドリルビットを提供することができる。
【0027】すなわち、切削屑の排出抵抗を低減させるためにはスリットの縁の延長線が交差して作られる角度が大きくなるスリットを設ければよいが、この角度をあまり大きくするとスリットの面積が増大し、それに比例してドリルビットの断面積が減少するため切削に関与する部分がなくなり切削能力が低下する。さらにスリットの縁が鋭角になるためこの部分が欠け易くなる。発明者らは研究の結果スリットの縁の延長線が交差して作られる角度が15°から70°である場合に特に切削能力、耐久性に優れることを見出したのである。
- 【公開番号】特開2000−2072(P2000−2072A)
【公開日】平成12年1月7日(2000.1.7)
【発明の名称】ダイヤモンドドリルビット
- 【出願番号】特願平10−170826
【出願日】平成10年6月18日(1998.6.18)
【出願人】
【識別番号】000010010
【氏名又は名称】ロンシール工業株式会社
- 【代理人】
【識別番号】100068607
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 政名 (外2名)
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