油井管用ねじ継手
- 【要約】
【課題】 使用環境温度が300〜400℃であっても、十分な耐漏れ性能を有する油井管用ねじ継手を提供する。
【解決手段】 雄ねじ1aaを有するピン部1aと、雌ねじ2aaを有するボックス部2aを有する油井管用ねじ継手である。ねじ継手本体を、Cr:0.4〜1.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%のCr−Mo鋼で製作すると共に、ピン部1aとボックス部2aにおける嵌め合わせ部の少なくともいずれか一方に、亜鉛めっき処理あるいは銅めっき処理を施す。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】 雄ねじを有するピン部と、雌ねじを有するボックス部を有する油井管用ねじ継手において、ねじ継手本体を、Cr:0.4〜1.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%のCr−Mo鋼で製作すると共に、ピン部とボックス部における嵌め合わせ部の少なくともいずれか一方に、亜鉛めっき処理あるいは銅めっき処理を施すことを特徴とする300〜400℃にて使用する油井管用ねじ継手。
- 【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、地下から産出される天然ガスや原油の探査・生産に使用される油井管用のねじ継手に係るものであり、特に300〜400℃の使用環境温度に使用するのに適したねじ継手に関するものである。
【0002】
【従来の技術】天然ガス田や油田の探査、生産に使用される油井管を接続する技術として、ねじ継手が広く用いられている。このねじ継手には、管の一端にピン部を、他端にボックス部を形成して管同士を結合するインテグラム方式と、2つのボックス部を形成したカップリングと、両端にピン部を形成した管を接続するカップリング方式がある。
【0003】前記した両方式においても、シール部やトルクショルダー部に関して、いくつもの組み合わせがあるが、カップリング方式の場合の一例を図1に示す。この図1に示す例は、鋼管1には、端部に設けた雄ねじ1aaを有するピン部1aの先端に、テーパ状のシール形成用ねじ無し部1bを設け、カップリング2には、両端部に設けた前記雄ねじ1aaに螺合する雌ねじ2aaを有するボックス部2aの奥部に、前記ねじ無し部1bに嵌め合うテーパ状のシール形成用ねじ無し部2bを設けた構成で、これら両ねじ無し部1b,2bを嵌め合わせることでシール部を形成している。
【0004】一方、ねじの形状に関しても、図2に示すようなAPI規格の台形ねじや、図3(a)(b)に示すようなラギットねじや、図4に示すようなフックねじや、図5に示すようなラウンドねじ等、多くの種類がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】この内、API規格の台形ねじやラウンドねじは、締め付け時にシール剤を使用し、耐リーク性能は雄ねじと雌ねじ間に介在するシール剤の密閉によりなされるが、使用環境温度が300℃以上になると、シール剤の大半がガス化してシール剤の粘性がなくなり、雄ねじと雌ねじ間に隙間を生じるようになり、内圧が負荷された場合にはリーク(漏れ)が発生する。
【0006】そこで、API規格の台形ねじ等に代わり、メタルシールを有する特殊ねじが広く採用され始めたが、この特殊ねじであっても、300〜400℃の温度になると、低炭素鋼ではリラクゼーション(応力緩和)が働いてメタルシール部及びねじ干渉部の面圧がなくなってしまい、軸力(引張り又は圧縮)が負荷された場合には漏れが発生する。
【0007】本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、使用環境温度が300〜400℃であっても、十分な耐漏れ性能を有する油井管用ねじ継手を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、本発明の油井管用ねじ継手は、ねじ継手本体を、Cr:0.4〜1.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%のCr−Mo鋼で製作し、かつ、ピン部とボックス部における嵌め合わせ部の少なくともいずれか一方に、亜鉛めっき処理あるいは銅めっき処理を施すこととしている。そして、ねじ継手本体をCr−Mo鋼とすることで、Cr、Moが使用環境温度に対しての強度を保存する働きをなし、リラクゼーションの発生程度が著しく低減され、また、嵌め合わせ部の少なくともいずれか一方に、亜鉛めっき処理あるいは銅めっき処理を施すことで、300〜400℃の温度域でも良好な固体潤滑状態を維持する。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の油井管用ねじ継手は、雄ねじを有するピン部と、雌ねじを有するボックス部を有する油井管用ねじ継手において、ねじ継手本体を、Cr:0.4〜1.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%のCr−Mo鋼で製作すると共に、その強度を油井管として降伏応力レベル80〜125ksi(56.24〜87.8kg/mm2 )とすること、そして、ピン部とボックス部における嵌め合わせ部の少なくともいずれか一方に、亜鉛めっき処理あるいは銅めっき処理を施すこととしている。
【0010】ねじ継手のメタルシール部に発生する面圧は、ピン部のメタルシール部とボックス部のメタルシール部の焼き嵌め効果に依存している。つまり、ピン部は圧縮のフープ応力が、また、ボックス部は引張のフープ応力が発生している。従って、高温環境になるとピン部やボックス部に作用するフープ応力が緩和されるので、ピン部のメタルシール部は縮径し、また、ボックス部のメタルシール部は拡径し、その結果としてメタルシール部に発生する面圧も低下する。ところが、Cr−Mo鋼はCr、Moが使用環境温度に対しての強度を保存する働きをし、油井管用の降伏応力を確保しながら、シール性能を保持する考え方に準じて、本発明者の実験では、その効果はCr:0.4〜1.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%の場合に格段とリラクゼーションの発生程度が低減することを知見した。そこで、本発明では、ねじ継手本体を、Cr:0.4〜1.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%のCr−Mo鋼で製作することとしている。
【0011】また、ピン部とボックス部の嵌め合わせにより、局部的な焼き付きが発生すると、その焼き付き部を起点として漏れが発生する。加えて、シール剤は300℃以上の高温では大半がガス化してしまうので、特殊継手のメタルシール部においても、同様の状況が発生する。従って、300℃以上の高温環境下においては、液体の潤滑状態ではなく固体の潤滑状態となる。そこで、本発明では、嵌め合わせ部の少なくともいずれか一方に、固体潤滑として適正な亜鉛めっき処理あるいは銅めっき処理を施すこととしている。その理由は、これらは300〜400℃でも融けず、かつ、硬さも、亜鉛めっきではHv=115、銅めっきではHv=96と比較的小さいからである。ちなみに、銅めっきの溶融点は1083℃、亜鉛めっきの溶融点は419℃である。
【0012】
【実施例】以下、本発明の油井管用ねじ継手について、その効果を確認すべく実験した結果に基づいて説明する。下記に示す諸元の、図1に示した構成のカップリング方式のねじ継手において、ねじ継手本体の材質とピン部とボックス部における嵌め合わせ部に施す表面処理を種々変更したねじ継手を製造し、これらねじ継手を用いて以下に説明するような漏れ試験を行った結果、下記表1及び表2に示すように、本発明例のねじ継手の場合(表1)には漏れの発生は皆無であったが、比較例の場合(表2)には、全て漏れが発生した。
【0013】すなわち、本実験に供した漏れ試験は、以下の■〜■の段階を経て漏れが発生したか、否かを確認するものである。
■ ねじ部分に潤滑剤(コンパウンド)をつけた管とカップリングを1863kg・mのトルクで締め付けた後、緩める。
■ 上記した■の操作を繰り返す。
【0014】■ ねじ部分に潤滑剤(コンパウンド)をつけた管とカップリングを1518kg・mのトルクで締め付ける。
■ 350℃(蒸気の臨界温度)において約2500psi(176kg/cm2 )の圧力の蒸気を管内に封入し、この状態を12時間保持して潤滑剤(コンパウンド)をガス化する。
【0015】■ 350℃において、標準最小降伏応力の85%の値の応力で、引張と圧縮を5サイクル繰り返す。
■ 常温、2500psiの圧力下において、標準最小降伏応力の95%の値の応力で、引張と圧縮を2サイクル繰り返す。
【0016】〔ねじ継手の諸元〕
管本体の外径 :177.8 mm管本体の肉厚 : 10.36mmカップリングの外径 :194.5 mmねじ形状 :台形ねじ(BTC)
ねじピッチ : 5.08mm【0017】
【表1】【0018】
【表2】【0019】次に、上記したリーク試験と同じねじ継手を用い、350℃で標準最小降伏応力の85%の値の応力で、引張と圧縮を5サイクル繰り返した加熱実験前後での管のピン部におけるシール部分の外径の低減量を計測した結果を下記表3及び表4に示す。
【0020】
【表3】【0021】
【表4】【0022】表3及び表4より本発明例のねじ継手(表3)では、比較例(表4)と比べて、加熱実験前後での管のピン部におけるシール部分の外径の低減量が大幅に減少しているのが判る。従って、この結果より、本発明例のねじ継手では、メタルシール部分における面圧の低下が少なく、リラクゼーションの発生程度が低減していることが明らかである。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の油井管用ねじ継手では、使用環境温度が300〜400℃であっても、十分な耐漏れ性能を有する。従って、漏れが発生しないために、水蒸気の圧入が所定通り実施でき、粘性の高い油の回収効率が上昇する。
- 【公開番号】特開2000−45674(P2000−45674A)
【公開日】平成12年2月15日(2000.2.15)
【発明の名称】油井管用ねじ継手
- 【出願番号】特願平10−229275
【出願日】平成10年7月29日(1998.7.29)
【出願人】
【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
- 【代理人】
【識別番号】100060829
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 満好 (外1名)
- ※以下のタグをホームページ中に張り付けると便利です。
-
当サイトではIPDL(特許電子図書館)の公報のデータを著作権法32条1項に基づき公表された著作物として引用しております、
収集に関しては慎重に行っておりますが、もし掲載内容に関し異議がございましたらお問い合わせください、速やかに情報を削除させていただきます。