転換鎖錠器の転換保持力増強方法および転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
- 【要約】
【課題】定位または反位にポイントを保持する転換鎖錠器の保持力を増大させる。
【解決手段】Y形クランク5と、主ばねユニット11と補助ばねユニット12R,12Lとカム機構とを有している。Y形クランク5は、電気転てつ機4の動力を受けて転回し、ポイントを定位または反位に転換するものであり、主ばねユニット11は、転換鎖錠器3の器体3aの中央軸心上を揺動可能に支持され、中央軸心上を越えて一方に傾いたときにY形クランク5にばね力を作用して、転換方向に向けて付勢するものである。補助ばねユニット12R,12Lは、ポイントが転換される直前の位置において、主ばねユニット11とともにY形クランク5を付勢するものであり、カム機構は、ポイントが定位、反位位置に転換された後のY形クランク5の転換方向に補助ばねユニット12R,12Lのばね力を作用させて転換保持力を高めるものである。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気転てつ機の動力を受けて転回し、トングレールを基本レールに押し付け、あるいは基本レールから引き離してポイントを定位または反位に転換するY形クランクに主ばねユニットと、補助ばねユニットとを組み合わせて転換鎖錠器の転換保持力を増強する方法であって、
前記Y形クランクに、主ばねユニットのばね力を作用させて転換方向に応じて定位または反位方向に付勢し、定位または反位転換終了直前にさらに補助ばねユニットのばね力を作用させて、ポイントを定位または反位位置に保持させる保持力を発生させることを特徴とする転換鎖錠器の転換保持力増強方法。
【請求項2】
ポイントを定位または反位に転換後、補助ばねユニットのばね力をY形クランクに作用させ、一方のトングレールを基本レールに押し付ける方向に付勢することを特徴とする請求項1に記載の転換鎖錠器の転換保持力増強方法。
【請求項3】
転換鎖錠機構として転換鎖錠器に組み込まれたY形クランクと、主ばねユニットと補助ばねユニットとカム機構とを有する転換鎖錠器の転換保持力増強機構であって、
Y形クランクは、電気転てつ機の動力を受けて転回し、トングレールを基本レールに押し付け、あるいは基本レールから引き離してポイントを定位または反位に転換するものであり、
主ばねユニットは、転換鎖錠器の器体の中央軸心上を揺動可能に支持され、器体の中央軸心上を越えて一方に傾いたときにY形クランクにばね力を作用して、ポイントを定位または反位に転換させる方向に向けて付勢するものであり、
補助ばねユニットは、ポイントが定位、反位位置に転換される直前の位置において、主ばねユニットとともにY形クランクを付勢するものであり、
カム機構は、ポイントが定位、反位位置に転換された後のY形クランクの転換方向に補助ばねユニットのばね力を作用させて転換保持力を高めるものであることを特徴とする転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
【請求項4】
Y形クランクの第1及び第2のクランクには、それぞれトングレールと連結するリンクが接続され、第3クランクに、前記主ばねユニットが接続されているものであり、
前記カム機構は、カムとローラとの組み合わせからなり、
ローラはY形クランクの第3のクランクに取り付けられ、Y形クランクの回転変位に従ってカム面に沿って移動させるものであり、
カムは、前記ローラを誘導する円弧状のカム面を有し、前記器体の中央軸線上を揺動可能に支持されたブロックであり、その両端が前記補助ばねユニットに支えられ、
カム面の一部には、凸部を有し、凸部は、円弧状のカム面の一部に中高状に立ち上がらせた部分であり、前記ローラが乗り越えることによって、補助ばねユニットのばね力をY形クランクに付与し、ローラが乗り越えた後は、補助ばねユニットのばね力をY形クランクに転換方向に作用させるものであることを特徴とする請求項3に記載の転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
【請求項5】
前記凸部は、円弧状のカム面の両端から一定距離をおいてその内側に形成されているものであり、
前記補助ばねユニットは、前記器体の中央軸線を挟んでその両側に支持され、前記カムの両端位置にばね力を作用させるものであることを特徴とする請求項4に記載の転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
【請求項6】
前記Y形クランクは、電気転てつ機の駆動により90°転回してポイントを定位から反位へ、あるいは逆に反位から定位に転換するものであり、
前記補助ばねユニットは、前記Y形クランクの転回角0°〜45°、45°〜90°の範囲にわたってそのばね力を前記Y形クランクに作用し、定位または反位転換の直前において前記主ばねユニットのばね力に加算して定位または反位転換保持に必要なばね力を増強し、転換途中においては、前記主ばねユニットのばね力を減殺する方向に作用させるものであることを特徴とする請求項5に記載の転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
【請求項7】
前記カム面の両端に形成した凸部は、ポイントが定位または反位に転換したのち、Y形クランクの逆転を阻止するストッパとして機能するものであることを特徴とする請求項6に記載の転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
- 【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側線割出し機能を有する電気転てつ機、例えば、YS形電気転てつ機と併用する転換鎖錠器の転換保持力を増強する方法と、転換鎖錠器の転換保持力増強機構に関する。
【背景技術】
【0002】
YS形電気転てつ機は、転換鎖錠器(YS形)および回路制御器(YS形)と併用され、本線以外のポイントの転換に使用することを目的した電気転てつ機であり、背向割出しが可能である。電気転てつ機は、転換装置であり、転換機構、減速機構及び誘導電動機から構成されている。転換機構は、転換歯車に固定された転換ローラとカムによりクランクを動かし、ポイントを転換するものである。また、転換鎖錠器(YS形)は、鎖錠装置であり、回路制御器(YS形)が密着照査装置である。
【0003】
図1は、背向割出し機能を有するYS形電気転てつ機(以下電気転てつ機という)の設置例を示す図である。
図1において、本線以外のヤードの仕分線や側線において、基本レール1a,1b間の枕木2の上には、転換鎖錠器3が据え付けられ、レール1a、1bの一側方に張り出した枕木2の張り出し部分には電気転てつ機4が設置されている。転換鎖錠器3のY形クランク5の第1クランク5aには、第1リンク6aを介して一方のトングレール7aがつながれ、Y形クランク5の第2クランク5bは、第2リンク6bを介して他方のトングレール7bにつながれている。また、アーム8はオフセットリンク9を介して電気転てつ機4のクランク10または直線運動する動作桿に連結されている。
【0004】
なお、直線移動する動作桿を備えた電気転てつ機は、例えば特許文献1に記載されている。電気転てつ機4のクランク10は、スクルジョーを介してオフセットリンク9の一端に連結され、転換鎖錠器3のアーム8は、オフセットリンク9の他端にピンで連結されている。
【0005】
ところで、電気転てつ機4は、転換時にクランク軸を中心に60°転回してオフセットリンク9に正規のストローク(200mmのストローク)を与え、転換鎖錠器3のY形クランク5は、このストローク(200mm)を受けて90°転回した位置を保持し、ポイントを定位又は反位鎖錠するように設計されているのであるが、現実には鎖錠時の保持力が必ずしも十分ではないという指摘があった。
【0006】
もし、鎖錠時の保持力が弱いと、ポイントを定位又は反位に保持できずに転換鎖錠器3のY形クランク5の転回角にずれが生じ、鎖錠不良の原因となる。
図2に転換鎖錠器3に組み込まれた従来の転換鎖錠機構を示す。図2において、Y形クランク5は、転換鎖錠器3の器体に内蔵されたばね(以下本発明の構成と説明を合致させる都合上、このばねを主ばねユニット11として説明する。本発明においては、主ばねユニット11とは別に補助ばねユニットが組み込まれている)に連結されて定位鎖錠時においては常時一方向(定位鎖錠の方向)に付勢されており、反位鎖錠時には、主ばねユニット11の枢軸を中心に方向転換してY形クランク5を反位方向に付勢するように構成されたものである。
【0007】
したがって、定位または反位鎖錠の保持力が不足するときに、主ばねユニット11にばね定数の大きいばねを用いることによって対応することは可能であるが、ばね力を大きくすることは、それだけ転換時の負荷が大きくなり、また、手回しハンドルを扱って手動操作を行う場合に、転換時の反動で急激に手回しハンドルが回されることになってきわめて危険である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2007−84459号の出願明細書及び図面
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】(社)日本鉄道電気技術協会 「転てつ装置」 平成4年5月10日 P39〜P47
【非特許文献2】動力転てつ機の話、社団法人信号保安協会 昭和44年 P95〜100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、定位または反位鎖錠の保持力が不足するときには、Y形クランクに連結された、主ばねユニットにばね力の大きいものを用いることで解消することは可能ではあるものの、主ばねユニットにばね力が大きいばねを使用することは、それだけ転換時の電気転てつ機の負荷が大きくなり、また、手回しハンドルを扱って手動操作を行う場合に、転換に大きな力が必要になり、強いてハンドルを回そうとしたときに、転換途中でハンドルに加速がついて急速にまわされてしまうことになって、きわめて危険な事態を招くという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、前記主ばねユニットとは別に、定位または反位転換時の直前位置においてY形クランクを付勢する補助ばねユニットを付加し、Y形クランクを定位または反位方向に押圧する主ばねユニットのばね力を増強することなく、転換鎖錠時の転換保持力を増大させることをもっとも主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポイントを定位から反位に、あるいは反位から定位に転換するに際し、転換開始直後および転換終了直前において、Y形クランクは、主ばねユニットによる押圧力に、補助ばねユニットの押圧力が加わってY形クランクを転換方向に押圧するため、転換終了時点において、定位または反位にポイントを保持する転換鎖錠器の転換保持力が増強し、側線における列車通行の安全を図ることができる。
- 【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電気転てつ機と転換鎖錠器との関係を示す平面図である。
【図2】Y形クランクとリンクとの死点配列の構成を示す図である。
【図3】(a)は、本発明による転換保持力増強機構を組み込んだ転換鎖錠器の平面図、(b)は同断面側面図、(c)は同断面正面図、(d)は補助ばねユニットの断面側面図である。
【図4】カム面の形状と、ローラとの関係を示す図である。
【図5】(a)〜(e)は、ポイントを定位から反位へ転換させるときに、Y形クランクの転回角とカムとの関係を示す図である。
【図6】主ばねユニットのみの場合と、主ばねユニットに補助ばねユニットとえお組み合わせた場合と抵抗力の違いを示すグラフである。
【図7】主ばねユニットのみによる転換力(従来形)と、主ばねユニットに補助ばねユニットを組み合わせた場合の転換力(改良形)とについて、電気転てつ機のモータ電流の測定値の比較を示すグラフである。
- 【公開番号】特開2010−216168(P2010−216168A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【発明の名称】転換鎖錠器の転換保持力増強方法および転換鎖錠器の転換保持力増強機構。
- 【出願番号】特願2009−65511(P2009−65511)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
【識別番号】000144348
【氏名又は名称】株式会社三工社
- 【代理人】
【識別番号】100075306
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 中
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