冷延鋼板およびその製造方法
- 【要約】
【課題】降伏応力が低く深絞り性に優れるとともに、良好な耐二次加工脆性を有する冷延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】C、Si、Mn、P、S、sol.Al、N、Ti及びNbを所定濃度含有し、残部がFe及び不純物からなるとともに下記式(1)及び(2)を満足する化学組成を有し、フェライト結晶粒度番号が9.0以下である鋼組織を有し、塗装焼付硬化量が10〜35MPaである機械特性を有する冷延鋼板。-0.0025≦C-(12/93)×Nb-(12/48)×Ti*<0(1)Ti*=max[Ti-(48/14)×N-(48/32)×S,0](2)ここで、式(1)および(2)における各元素記号は各元素の含有量(単位:質量%)を示し、式(2)におけるmax[]は[]内の引数のうち最大の値を返す関数である。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.0005%以上0.0035%以下、Si:0.1%以下、Mn:0.05%以上0.2%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.0005%以上0.08%以下、N:0.004%以下、Ti:0.003%以上0.015%以下およびNb:0.015%以上0.035%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに下記式(1)および(2)を満足する化学組成を有し、フェライト結晶粒度番号が9.0以下である鋼組織を有し、塗装焼付硬化量が10MPa以上35MPa以下である機械特性を有することを特徴とする冷延鋼板。
−0.0025≦C−(12/93)×Nb−(12/48)×Ti*<0 (1)
Ti*=max[Ti−(48/14)×N−(48/32)×S,0] (2)
ここで、式(1)および(2)における各元素記号は各元素の含有量(単位:質量%)を示し、式(2)におけるmax[ ]は[ ]内の引数のうち最大の値を返す関数である。
【請求項2】
前記化学組成が、Feの一部に代えて、B:0.0020質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項3】
平均r値が1.6以上であり、降伏応力YSが180MPa以下である機械特性を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷延鋼板。
【請求項4】
前記冷延鋼板の表面にめっき層を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の冷延鋼板。
【請求項5】
下記工程(A)〜(E)を含むことを特徴とする冷延鋼板の製造方法:
(A)請求項1または請求項2に記載の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施して860℃以上960℃以下の温度域で圧延を完了し、600℃以上750℃以下の温度域で巻き取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板に酸洗を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C)前記酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
(D)前記冷延鋼板に800℃以上900℃以下の温度域で焼鈍して550℃まで4℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する連続焼鈍工程;および
(E)前記鋼板を1%以下の伸び率で圧延するスキンパス工程。
- 【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷延鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、降伏応力が低く深絞り性に優れるとともに、良好な耐二次加工脆性を有する冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業技術分野が高度に分業化した今日、各技術分野において用いられる材料には、特殊かつ高度な性能が要求されている。例えば、プレス成形して使用される鋼板については、プレス形状の多様化に伴い、より優れた成形性が必要とされている。特に、自動車用鋼板に関しては、地球環境への配慮から、車体を軽量化して燃費を向上させることが検討されており、これにより、薄肉高成形性鋼板の需要が著しく高まってきている。そして、プレス成形においては、使用される鋼板の厚さが薄いほど、割れやしわが発生しやすくなるため、より高い深絞り性やより低い降伏応力などの成形性に優れた鋼板が必要とされる。
【0003】
これまでに、自動車のアウターパネル等の用途に適した深絞り用冷延鋼板として、極低炭素鋼にTiやNbを添加した、いわゆるIF鋼板について多くの提案がなされている。IF鋼板は、鋼中のCおよびNをTiCやTiN等として析出固定し、固溶状態のCやNが鋼中に存在しない状態としている。このため、再結晶焼鈍時に深絞り性に好ましい集合組織が形成され、優れた成形性を得ることができる。
【0004】
しかし、IF鋼板は、結晶粒界に固溶Cや固溶Nが存在しないため、粒界強度が著しく低下し、耐二次加工脆性に劣るという問題を有する。特に、厳しい絞り成形が施されることが多いサイドパネルアウター用途等では、高い耐二次加工脆性が要求されるのでIF鋼板の適用が困難となる場合がある。
【0005】
そこで、IF鋼板の耐二次加工脆性を改善する方法に関して、従来からいくつかの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、Ti−IF鋼板にBを添加することにより耐二次加工脆性を改善する技術が開示されている。また、特許文献2には、浸炭雰囲気中で箱焼鈍を行い、フェライトを細粒化することにより、Ti−IF鋼板またはTi、Nb−IF鋼板の耐二次加工脆性を向上させる技術が開示されている。
【0006】
ところで、固溶Cが残留するように設計された化学組成を有する塗装焼付硬化型鋼板は、結晶粒界に固溶Cが元来存在するため、高い粒界強度が確保され、良好な耐二次加工脆性を備える。特許文献3には、10〜35MPaという低い塗装焼付硬化量(以下、「BH量」ともいう。)とすべく、固溶Cが残留するように化学組成を設計することにより、耐デント性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−140333号公報
【特許文献2】特開昭63−38556号公報
【特許文献3】特開平10−46289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された技術は、B添加を必須とするものであるため、Bによる再結晶温度の上昇が著しくなり、深絞り性の劣化を招く場合がある。
また、特許文献2に開示された技術は、長時間の焼鈍を必須とするものであるため、生産性に劣る。さらに、鋼組織が細粒であるために良好なプレス成形性を得ることができない。
【0009】
また、特許文献3に開示された技術は、固溶Cが残留するように化学組成が設計されているため、熱延鋼板の段階においても鋼中に固溶Cが存在する。このような熱延鋼板に冷間圧延を施して再結晶焼鈍を施すと、再結晶焼鈍時に固溶Cが存在するため、粒成長が阻害されて鋼組織が微細となる。さらに、再結晶焼鈍時の集合組織を形成する際に固溶Cが存在するため、深絞り性に好ましい集合組織の形成が阻害される。このため、低い降伏応力と優れた深絞り性と具備させることは困難である。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、降伏応力が低く深絞り性に優れるとともに、良好な耐二次加工脆性を有する冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。
その結果、熱延鋼板の段階においては鋼中に固溶Cを極力存在させないようにして、冷間圧延後の再結晶焼鈍時における粒成長と深絞り性に好ましい集合組織の形成とを促進し、再結晶焼鈍後の段階においては鋼中に適量の固溶Cを存在させるようにして、良好な耐二次加工脆性を具備させるという、一見相反する関係にある事項を両立させることを新たに着想した。
【0012】
そして、上記事項を両立させる手段として、再結晶焼鈍温度付近の800℃程度で再固溶するNbCの性質に着目し、極低炭素鋼にTiとNbとを複合して含有させ、Ti含有量の上限を制限することにより鋼中のCの固定を基本的にNbにより行うようにし、熱延鋼板の段階においてはNbCの析出を促して鋼中に固溶Cを極力存在させないようにし、冷間圧延後の再結晶焼鈍時における粒成長と深絞り性に好ましい集合組織の形成とを促進し、再結晶焼鈍においてNbCを再固溶させて鋼中に適量の固溶Cを存在させるようにし、良好な耐二次加工脆性を具備させることを新たに着想したのである。
【0013】
以下、本発明に至った経緯について説明する。
本発明者らは、固溶C量が異なる板厚0.65mmの冷延鋼板(化学組成は、質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.01%、Mn:0.08〜0.10%、P:0.010〜0.012%、S:0.006%、sol.Al:0.03〜0.05%、N:0.0018〜0.0022%、Ti:0.003〜0.025%、Nb:0.010〜0.040%を含有し、残部Feおよび不純物からなる。)を用いて、下記式(3)で規定される計算固溶C量と降伏応力(YS)、平均r値、耐二次加工脆性、BH量との関係を調査した。
Ti*=max[Ti−(48/14)×N−(48/32)×S,0] (2)
計算固溶C量=C−(12/93)Nb−(12/48)Ti* (3)
【0014】
ここで、式(2)および(3)における各元素記号は各元素の含有量(単位:質量%)を示し、式(2)におけるmax[ ]は[ ]内の引数のうち最大の値を返す関数である。
【0015】
その結果、次の知見が得られた。
(i)計算固溶C量の増加にともなって、再結晶焼鈍における粒成長が阻害されて鋼組織が微細となるとともに深絞り性に好ましい集合組織の形成が阻害され、図1に示すように降伏応力(YS)が上昇し、図2に示すように平均r値が低下する。
【0016】
(ii)特に計算固溶C量が0を上回ると特性が急激に劣化する。
これらの知見から、降伏応力(YS)が180MPa以下かつ平均r値が1.6以上を実現するためには、計算固溶C量を0未満にすることが有効であることが判明した。
【0017】
また、BH量と耐二次加工脆性との関係の調査より、図3に示すようにBH量を10MPa以上とすることにより良好な耐二次加工脆性が得られることが判明した。なお、耐二次加工脆性の指標は以下の方法で評価した。すなわち、再結晶焼鈍後の鋼板から円形素板を採取し、パンチ径40mmの円筒深絞り試験機を用いて絞り比1.8の深絞り成形を施して円筒状カップを成形した。これらの円筒状カップを種々の温度に冷却し、上方1mの高さから質量5kgの錘を落下させ、得られた破面の観察を行った。この観察により脆性割れの発生する臨界温度を求め、臨界温度が−80℃以下である場合を耐二次加工脆性が良好とした。
【0018】
以上の知見に基づいて完成された本発明は次のとおりである。
【0019】
(1)質量%で、C:0.0005%以上0.0035%以下、Si:0.1%以下、Mn:0.05%以上0.2%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.0005%以上0.08%以下、N:0.004%以下、Ti:0.003%以上0.015%以下およびNb:0.015%以上0.035%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに下記式(1)および(2)を満足する化学組成を有し、フェライト結晶粒度番号が9.0以下である鋼組織を有し、塗装焼付硬化量が10MPa以上35MPa以下である機械特性を有することを特徴とする冷延鋼板。
−0.0025≦C−(12/93)×Nb−(12/48)×Ti*<0 (1)
Ti*=max[Ti−(48/14)×N−(48/32)×S,0] (2)
ここで、式(1)および(2)における各元素記号は各元素の含有量(単位:質量%)を示し、式(2)におけるmax[ ]は[ ]内の引数のうち最大の値を返す関数である。
【0020】
なお、塗装焼付硬化量はJIS G 3135で規定される塗装焼付硬化量試験方法により求められる圧延方向の値である。
(2)前記化学組成が、Feの一部に代えて、B:0.0020質量%以下を含有することを特徴とする上記(1)に記載の冷延鋼板。
【0021】
(3)平均r値が1.6以上であり、降伏応力YSが180MPa以下である機械特性を有することを特徴とする上記(1)または上記(2)に記載の冷延鋼板。
(4)前記冷延鋼板の表面にめっき層を有することを特徴とする上記(1)〜上記(3)のいずれかに記載の冷延鋼板。
【0022】
(5)下記工程(A)〜(E)を含むことを特徴とする冷延鋼板の製造方法:
(A)上記(1)または上記(2)に記載の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施して860℃以上960℃以下の温度域で圧延を完了し、600℃以上750℃以下の温度域で巻き取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板に酸洗を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C)前記酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
(D)前記冷延鋼板に800℃以上900℃以下の温度域で焼鈍して550℃まで4℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する連続焼鈍工程;および
(E)前記鋼板を1%以下の伸び率で圧延するスキンパス工程。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、降伏応力が低く深絞り性に優れるとともに、良好な耐二次加工脆性を有する冷延鋼板が得られるので、自動車部品、特に自動車のアウターパネル等のように厳しい深絞り加工が施される用途に好適である。また、本発明は、自動車の車体軽量化を通じて地球環境問題の解決に寄与するなど産業の発展に寄与するところ大である。
- 【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】計算固溶C量と降伏応力(YS)との関係を示すグラフである。
【図2】計算固溶C量と平均r値との関係を示すグラフである。
【図3】計算固溶C量とBH量と耐二次加工脆性との関係を示すグラフである。
- 【公開番号】特開2012−12629(P2012−12629A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【発明の名称】冷延鋼板およびその製造方法
- 【出願番号】特願2010−147597(P2010−147597)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】
【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
- 【代理人】
【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
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