塗膜保護用再剥離型粘着シート
- 【要約】
【課題】
乾燥が不十分で溶剤が微量残存していたり、乾燥後の硬化が不十分な塗膜面に貼付後、再剥離した場合であっても、「膨潤」や「白ボケ」、「糊残り」が生じることがない、塗膜保護用再剥離型粘着シートを提供する。
【解決手段】
基材シートと、該基材シート上に粘着剤層を有する塗膜保護用再剥離型粘着シートであって、前記粘着剤層が、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含む、エマルジョン粘着剤組成物から形成されるものであることを特徴とする塗膜保護用再剥離型粘着シート。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、該基材シート上に粘着剤層を有する塗膜保護用再剥離型粘着シートであって、前記粘着剤層が、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含む、エマルジョン粘着剤組成物から形成されるものであることを特徴とする塗膜保護用再剥離型粘着シート。
【請求項2】
前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンが、エチレンとカルボン酸ビニルエステルを含む単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体(A)のエマルジョン、または、前記共重合体(A)のエマルジョンをシードエマルジョンとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをさらに重合して得られる共重合体(B)のエマルジョンである請求項1に記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
【請求項3】
前記共重合体(B)中の、共重合体(A)由来の繰り返し単位部分と(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分との比率が、(共重合体(A)由来の繰り返し単位部分):〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分〕の質量%比で、10:90〜99:1である請求項2に記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
【請求項4】
前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体中の、エチレン由来の繰り返し単位部分とカルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位部分の比率が、(エチレン由来の繰り返し単位部分):(カルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位部分)の質量%比で、10:90〜30:70である請求項1〜3のいずれかに記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
【請求項5】
前記カルボン酸ビニルエステルが、脂肪族カルボン酸ビニルエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤層の、23℃における貯蔵弾性率が3.0×105Pa以下であり、80℃における貯蔵弾性率が4.0×104Pa以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
- 【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や家電、家具等に塗装した不完全硬化塗膜に貼付した後の剥離性に優れる、塗膜保護用再剥離型粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の輸送・保管時における傷を防止する等のために、車体や部品を保護するための保護フィルム(再剥離型粘着シート)を貼付することが行われている。また、各部品、特に自動車のバンパーは、軽量化のために、金属製のものから樹脂表面に塗装を施した樹脂製バンパーに置き換わってきている。
【0003】
ところが、樹脂製バンパーは、塗膜を高温で加熱硬化できないため、硬化が不十分な場合がある。そして、このような状態の塗膜(不完全硬化膜)に保護用の再剥離型粘着シートを貼付すると、剥離する際において、「膨潤(保護用の再剥離型粘着シート貼付時、シートに発生した微小の皺や浮き上がり等の形状の変化が塗膜に転写されて塗膜が変形する現象)」や、「白ボケ(シートの粘着剤層との相性により、塗膜の組成に偏りが生じ、シートを剥離した際、塗膜が白く見える現象)」、「糊残り(シートを剥離した際、粘着剤層の一部が塗膜に移行する現象)」のような問題が生じる。
【0004】
従来、塗膜保護用の再剥離型粘着シートとしては、特許文献1〜4に記載された粘着シートが知られている。しかしながら、これらの文献に記載された再剥離型粘着シートはいずれも不完全硬化膜を保護するには未だ不十分である。
【0005】
本発明に関連して、特許文献5には、エチレン、炭素数8〜15の脂肪族カルボン酸のビニルエステル、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルを特定の割合で含む単量体組成物を乳化重合して得られる共重合体を含有する水系エマルジョン型感圧接着剤が記載されている。
しかしながら、この文献には、不完全硬化塗膜に貼付するための再剥離型粘着シートについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2701020号
【特許文献2】特許3668322号
【特許文献3】特許2832565号
【特許文献4】特許3342977号
【特許文献5】特開2009−269956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたのであり、乾燥が不十分で溶剤が微量残存していたり、乾燥後の硬化が不十分な塗膜面に貼付後、剥離した場合であっても、「膨潤」や「白ボケ」、「糊残り」が生じることがない、塗膜保護用再剥離型粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、基材シート上に粘着剤層を有する粘着シートについて鋭意研究した。その結果、粘着シートの粘着剤層を、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含む粘着剤組成物から形成したものとすると、乾燥が不十分で溶剤が微量残存していたり、乾燥後の硬化が不十分な塗膜面に貼付後、剥離した場合であっても、「膨潤」や「白ボケ」、「糊残り」が生じることがない、塗膜保護用再剥離型粘着シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(6)の塗膜保護用再剥離型粘着シートが提供される。
(1)基材シートと、該基材シート上に粘着剤層を有する塗膜保護用再剥離型粘着シートであって、前記粘着剤層が、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含む粘着剤組成物から形成されるものであることを特徴とする塗膜保護用再剥離型粘着シート。
(2)前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンが、エチレンとカルボン酸ビニルエステルを含む単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体(A)のエマルジョン、または、前記共重合体(A)のエマルジョンをシードエマルジョンとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをさらに重合して得られる共重合体(B)のエマルジョンである(1)に記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
(3)前記共重合体(B)中の、共重合体(A)由来の繰り返し単位部分と(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分との比率が、(共重合体(A)由来の繰り返し単位部分):〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分〕の質量%比で、10:90〜99:1である(2)に記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
(4)前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体中の、エチレン由来の繰り返し単位部分とカルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位部分の比率が、(エチレン由来の繰り返し単位部分):(カルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位部分)の質量%比で、10:90〜30:70である(1)〜(3)のいずれかに記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
(5)前記カルボン酸ビニルエステルが、脂肪族カルボン酸ビニルエステルである(1)〜(4)のいずれかに記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
(6)前記粘着剤層の、23℃における貯蔵弾性率が3.0×105Pa以下であり、80℃における貯蔵弾性率が4.0×104Pa以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の塗膜保護用再剥離型粘着シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗膜保護用再剥離型粘着シートによれば、乾燥が不十分で溶剤が微量残存していたり、乾燥後の硬化が不十分な塗膜面に貼付後、剥離した場合であっても、「膨潤」や「白ボケ」、「糊残り」が生じることがない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、基材シートと、該基材シート上に粘着剤層を有する塗膜保護用再剥離型粘着シートであって、前記粘着剤層が、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含む粘着剤組成物から形成されるものであることを特徴とする塗膜保護用再剥離型粘着シート(以下、「本発明の粘着シート」ということがある。)である。
【0012】
[基材シート]
本発明に用いる基材シートとしては、塗膜の保護に影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、公知の合成樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0013】
合成樹脂フィルムを構成する合成樹脂としては、特に限定されず、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等のスチレン樹脂;アセテート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミド樹脂;及び、これらの合成樹脂の2種以上の組み合わせ;等が挙げられる。
これらの中でも、耐熱性や寸法安定性、経済性の観点から、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂;及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;が好ましい。
【0014】
また、本発明においては、基材シートとして、前記合成樹脂フィルムにアルミニウム等の金属蒸着を施したもの;や、前記合成樹脂フィルムに、共役ジエン重合体ゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム等のゴム質重合体を含有させたもの;等を用いることも好ましい(以下、これらを「合成樹脂を主成分とする樹脂フィルム」という。)。
【0015】
これらの中でも、耐熱性や寸法安定性、経済性の観点から、合成樹脂フィルムに、ゴム質重合体を含有させたものが好ましく、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂に共役ジエン重合体ゴムを含有させたものが特に好ましい。
【0016】
共役ジエン重合体ゴムの具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、及び、これらのゴムの共役ジエン単位にある不飽和結合の部分を水素化したゴム等が挙げられる。共役ジエン重合体ゴムの含有量は、基材シート全体に対して、5質量%〜30質量%である。
【0017】
基材シートが、樹脂フィルム(合成樹脂フィルム又は合成樹脂を主成分とする樹脂フィルム)である場合、該樹脂フィルムは未延伸のものでもよいし、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであってもよい。
また、基材シートは単層のものであっても、積層体(例えば、支持基材上に中間層を設けたもの等)であってもよく、無色透明のものであっても、酸化チタン等の顔料等により着色されたものであってもよい。
【0018】
さらに、基材シートの表面又は裏面には、塗膜保護期間に自動車メーカーの表示等を目的として印刷、印字等を施してもよい。例えば、基材シートには、感熱記録層、熱転写、インクジェット、レーザー印字等が可能な印字受像層、印刷性向上層等が設けられていてもよい。
また、基材シートの粘着剤層形成面には、粘着剤層との密着力(キーイング力)を向上させる目的で、プライマー処理やコロナ処理等の易接着処理が施されてもよい。
【0019】
基材シートの厚みは、特に制限はないが、通常、10〜200μmの範囲であり、取り扱い易さの面から、好ましくは25〜150μmである。
【0020】
[粘着剤層]
本発明の粘着シートの粘着剤層は、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含む粘着剤組成物から形成されるものである。
【0021】
[エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョン]
本発明に用いるエチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンは、分子内に、エチレン由来の繰り返し単位及びカルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位を少なくとも含む共重合体のエマルジョンである。ここで、エマルジョンとは、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体が、水、又は水及び水と混和性の有機溶媒との混合溶媒(以下、「水系溶媒」ということがある。)中に分散されてなる分散液をいう。
【0022】
本発明に用いるエチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンとしては、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体を水系溶媒に分散した分散液であれば、特に制約されないが、エチレン−カルボン酸ビニルエステルの単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体(以下、「共重合体(A)」と称する)のエマルジョン、又は、前記共重合体(A)のエマルジョンをシードエマルションとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをさらに重合して得られる共重合体(B)のエマルジョンであるのが好ましい。
【0023】
前記共重合体(A)及び共重合体(B)は、それぞれ1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体の製造に用いるカルボン酸ビニルエステルとしては、脂肪族カルボン酸のビニルエステル、芳香族カルボン酸のビニルエステル等が挙げられる。
カルボン酸のビニルエステルは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、脂肪族カルボン酸のビニルエステルが、より優れた本発明の効果が得られる観点から好ましい。
【0025】
脂肪族カルボン酸のビニルエステルとしては、酢酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、イソ吉草酸ビニル、ピバル酸ビニル、ヒドロアンゲリカ酸ビニル、カプロン酸ビニル、2−メチルペンタン酸ビニル、3−メチルペンタン酸ビニル、4−メチルペンタン酸ビニル、2,2−ジメチルブタン酸ビニル、2,3−ジメチルブタン酸ビニル、3,3−ジメチルブタン酸ビニル、2−エチルブタン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等が挙げられる。
これらの中でも、バーサチック酸ビニルを用いると、得られる粘着剤の低温初期粘着性をより向上させることができるので、好ましい。
【0026】
前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体中の、エチレン由来の繰り返し単位部分とカルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位部分の比率は、(エチレン由来の繰り返し単位部分):(カルボン酸ビニルエステル由来の繰り返し単位部分)の質量%比で、10:90〜30:70であるのが好ましい。
【0027】
[共重合体(A)の製造]
共重合体(A)は、エチレン及びカルボン酸のビニルエステルを含む単量体混合物を、乳化剤の存在下、水系溶媒中、乳化重合することにより得られる。
前述のとおり、水系溶媒は、水、又は水及び水と混和性の有機溶媒からなる混合溶媒をいう。水と混和性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1〜3のアルコールが挙げられる。
【0028】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両イオン性乳化剤等が使用できる。
アニオン性乳化剤しては、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
カチオン性乳化剤としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
両イオン性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0030】
これらの乳化剤の使用量は、特に限定されないが、使用する全単量体成分に対して5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。5.0質量%よりも多い場合、耐汚染性を低下させる傾向がある。
【0031】
重合開始剤としては、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤や過硫酸塩系開始剤等が使用できる。
過酸化物系開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素等が挙げられる。
アゾ系開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸、アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩等が挙げられる。
過硫酸塩系開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
重合調整剤(分子量調整剤)としては、チオグリコール酸、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、2−メルカプトエタノール等が使用できる。
【0033】
また、その他の添加剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0034】
リン酸エステル化合物を使用する場合、その添加量は、樹脂成分(共重合体(A))100質量部あたり、0.05質量部〜20質量部が好ましく、1質量部〜10質量部がより好ましい。0.05質量部以上用いることにより、耐汚染性を十分に得ることができる。一方、20質量部より多いと、十分な粘着力が得られないおそれがある。
【0035】
さらに、乳化重合の際においては、必要に応じて、防腐剤、防カビ剤、増粘剤、濡れ剤、消泡剤、粘着付与樹脂、可塑剤等の添加剤を配合することができる。さらに、pH調整剤として、アンモニア水、苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ナトリウム等を用いることもできる。なお、これらの添加剤は、乳化重合時だけでなく、乳化重合終了後に添加することもできる。
【0036】
重合温度は、40〜90℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。反応時間は好ましくは2〜5時間である。
【0037】
[共重合体(B)の製造]
共重合体(B)を得る重合方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法を採用することができる。
まず、上記のようにして共重合体(A)のエマルジョン(以下「シードエマルジョン」という。)を得る。
次いで、このシードエマルジョンの存在下で、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び必要に応じて前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なその他の単量体とをさらに乳化重合して共重合体(B)を得ることができる。
【0038】
より具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、乳化剤水溶液及び重合開始剤を混合して得られる(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の乳化物に、上記のシードエマルジョンを滴下して乳化重合することにより、共重合体(B)を得ることができる。
【0039】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル]
共重合体(B)の製造に用いる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸の、炭素数1〜20のアルキルエステルが挙げられる。本発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」のいずれかを意味する。
【0040】
[その他の単量体]
共重合体(B)の製造においては、前記の各単量体以外に、必要に応じて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なその他の単量体(以下、単に「その他の単量体」という。)の1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
このようなその他の単量体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体やアクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有単量体、及びアクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル基の炭素数が1〜4の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0042】
共重合体(B)の製造に用いる、乳化剤、重合開始剤、重合調整剤及び添加剤等は、前記共重合体(A)の製造に用いるものと同じものを使用することができる。
【0043】
共重合体(B)の重合温度は、40〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。また、単量体の乳化物の添加終了後、熟成反応を行なわせることが好ましい。その際の反応温度は好ましくは60〜90℃、より好ましくは60〜80℃である。
重合反応時間は好ましくは2〜5時間、より好ましくは3〜4時間である。
【0044】
得られる共重合体(B)中における、共重合体(A)由来の繰り返し単位部分と(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分との比率は、特に限定されないが、(共重合体(A)由来の繰り返し単位部分):〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分〕の質量%比で、10:90〜99:1であることが好ましく、70:30〜90:10であることが特に好ましい。
【0045】
共重合体(A)由来の繰り返し単位部分と(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分との比率を上記のような範囲とすることで、塗膜から剥離したときに膨潤したり糊残りが発生しない塗膜保護用再剥離型粘着シートを得ることができる。
【0046】
共重合体(B)中におけるその他の単量体由来の繰り返し単位部分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位部分100質量部に対し、100質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。100質量部より多いと、粘着力が不足する場合がある。なお、この単量体は必須成分ではないので、下限は0質量部である。
【0047】
本発明に用いるエチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のゲル分率は、5%〜40%が好ましく、10%〜30%が特に好ましい。5%以下になると使用時に糊残りが発生するおそれがある。また、40%以上になると、使用時に膨潤が発生するおそれがある。
【0048】
粘着剤層は、エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョンを主成分として含有する、エマルジョン粘着剤組成物から形成することができる。
ここで、「主成分として」とは、「粘着剤成分として」の意味であり、粘着剤組成物中に、前記エチレン−カルボン酸ビニルエステル系共重合体のエマルジョン以外に、必要に応じて、重合調整剤、リン酸エステル化合物、防腐剤、防カビ剤、増粘剤、濡れ剤、消泡剤、粘着付与樹脂、可塑剤、pH調整剤等の各種添加剤が、配合されていてもよいことを意味する。
【0049】
粘着剤層は、具体的には、前記エマルジョン粘着剤組成物を基材シートに塗布し、得られた塗膜を乾燥後、剥離フィルムと貼り合わせるか、または剥離フィルムに塗布、乾燥した後、それを基材シートと貼り合わせることにより形成することができる。
【0050】
得られる粘着剤層は、23℃における貯蔵弾性率が3.0×105Pa以下、好ましくは5.0×103Pa以上、1.2×105Pa以下であり、80℃における貯蔵弾性率が4.0×104Pa以下、好ましくは1.0×103Pa以上、4.0×104Pa以下のものであることが、塗膜保護の性能を得る上で好ましい。粘着剤層の貯蔵弾性率をこの数値内とすることにより、粘着シートの形状の変化が塗膜に転写されるのをより効果的に防止することができる。
【0051】
[剥離フィルム]
用いる剥離フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂フィルムの片面を剥離剤で剥離処理を施したもの等が使用できる。
【0052】
用いる剥離剤としては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル基含有カルバメート等が挙げられる。
【0053】
剥離フィルムの厚みは、特に限定されないが、通常10〜250μm、好ましくは20〜200μmである。
【0054】
エマルジョン粘着剤組成物を基材シート又は剥離フィルム上に塗工する方法としては、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、カーテンコート法等の従来公知の塗工方法が挙げられる。
【0055】
粘着剤組成物の塗膜を乾燥させる温度は、通常80〜120℃程度、好ましくは90〜110℃であり、乾燥時間は、通常、30秒から15分、好ましくは3〜7分程度である。
【0056】
粘着剤層の乾燥後の厚みは、通常、1〜50μm、好ましくは、5〜40μmである。粘着剤層の厚みを1μm以上とすることにより、必要な粘着力及び凝集力(保持力)を確保することができ、50μm以下とすることにより、コストアップを防ぐとともに、粘着剤層が端部からはみ出すのを防止することができる。
【0057】
本発明の粘着シートが適用される被着体は、例えば、塗膜を有するプラスチックや金属等が挙げられる。本発明の粘着シートは、特に、自動車のボディー、自動車用プラスチック製バンパーや家電用のプラスチック製部品に塗装された、ウレタン系の塗料により形成された不完全硬化塗膜の保護用粘着テープとして有用である。
【0058】
プラスチックの表面に形成された塗膜は耐熱性の観点で金属の表面に形成された塗膜のように高温下の硬化ができないため、通常、硬化が不完全であるか、塗膜中に微量の溶剤が残留している。
このように、硬化が不完全であるか、微量の溶剤が残留している塗膜に従来の塗膜保護用粘着テープを貼付して、長期間放置後、用済みの粘着テープを剥離すると、前記のように「膨潤」、「白ボケ」及び「糊残り」のような問題が生じる。本発明の粘着テープを用いれば、このような問題はいずれも生じることなく、塗膜を保護することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0060】
下記において用いた原材料は、次の通りである。
<原材料>
[エチレン]
・エチレンは、三菱化学社製(以下、「Et」と称する。)のものを使用した。
【0061】
[ビニルエステル類]
・酢酸ビニルは、日本合成化学社製(以下、「VAC」と称する。)のものを使用した。
・バーサチック酸ビニルは、シェル化学社製(以下、「VV」と称する。)のものを使用した。
【0062】
[アクリル系単量体混合物]
アクリル系単量体として、以下のものを使用した。
・アクリル酸2−エチルヘキシル:三菱化学社製(以下、「2EHA」と称する。)
・アクリル酸ブチル:三菱化学社製(以下、「BA」と称する。)
・メタクリル酸メチル:三菱レイヨン社製(以下、「MMA」と称する。)
・アクリル酸:三菱化学社製(以下、「AA」と称する。)
【0063】
[乳化剤]
乳化剤として、以下のものを同量ずつ混合したもの(以下、「乳化剤A」という。)を使用した。
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製:ネオペレックスG−65)
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製:エマルゲン1118S−70)
【0064】
[基材フィルム]
基材フィルムとして、シクロオレフィン系樹脂、酸化チタン、及びスチレン−ブタジエン系ゴムからなる樹脂フィルム(厚み:70μm)を使用した。
【0065】
[剥離フィルム]
剥離フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート製フィルム(厚み:38μm、商品名:SP−381031、リンテック社製)を使用した。
【0066】
(製造例1、2、5)
[シードエマルジョンの調製]
耐圧容器に、酢酸ビニル10質量部及びバーサチック酸ビニル80質量部を、水100部及び乳化剤A 2質量部とともに混合し、50℃に昇温した。窒素置換下でエチレン20質量部を導入しながら、1%過硫酸カリウムを0.5部及びホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.1重量部を、2時間かけて滴下して乳化重合しシードエマルジョンとした。
【0067】
[エマルジョン粘着剤組成物の調製]
温度計、還流冷却器、撹拌装置及び滴下ロートを備えた反応容器に、下記第1表に示す固形量のシードエマルジョンと水20質量部を仕込み、70℃に昇温した。次に、下記第1表に示す量の、アクリル系単量体混合物(2EHA/MMA/AA=93/5/2(質量比)のもの)及び乳化剤A、並びに水27質量部を混合して調製した単量体の乳化物を、アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩(商品名:V−50,和光純薬工業社製)0.3gを反応容器に加えた後、2時間かけて滴下した。その後、80℃で2時間熟成して、実施例1の、エチレン−カルボン酸ビニルエステル共重合体エマルジョン粘着剤(エマルジョン粘着剤組成物1,2,5)を得た。
【0068】
(製造例3)
アクリル系単量体混合物の乳化重合を行うことなく、製造例1で得たシードエマルジョンをそのまま粘着剤組成物3とした。
【0069】
(製造例4)
製造例1において、アクリル系単量体混合物として、BA/MMA/AA=93/5/2(質量比)のものを使用し、シードエマルジョンとアクリル系単量体混合物を下記第1表に示す量を用いた以外は、製造例1と同様にして粘着剤組成物4を得た。
【0070】
(製造例6)
製造例1において、アクリル系単量体混合物として、BA/2EHA/MMA/AA=46.5/46.5/5/2(質量比)のものを使用した以外は、製造例1と同様にして粘着剤組成物6を得た。
【0071】
(製造例7)
製造例1において、アクリル系単量体混合物として、2EHA/AA=98/2(質量比)のものを使用した以外は、製造例1と同様にして粘着剤組成物7を得た。
【0072】
(製造例8)
製造例1において、シードエマルジョンを構成する単量体として、酢酸ビニル10質量部及びバーサチック酸ビニル80質量部を用いる代わりに、酢酸ビニル90質量部を用いて調製したシードエマルジョンを使用した以外は、製造例1と同様にして粘着剤組成物8を得た。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例1〜8)
製造例1〜8で得られた粘着剤組成物1〜8を、基材フィルムに、乾燥後の塗布量が25g/m2になるようにアプリケーターを用いて塗工し、得られた塗膜を90〜100℃で乾燥して粘着シート1〜8を作製した。
【0075】
実施例1〜8で得た粘着シート1〜8のそれぞれを10mm×150mmに切断して、試験片とした。
得られた試験片を用いて、粘着シート1〜8の粘着剤層の23℃及び80℃の貯蔵弾性率を以下のようにして測定した。その結果を第2表に示す。
【0076】
(貯蔵弾性率)
厚さ30μmの粘着剤を積層し、8mmφ×3mm厚の円柱状の試験片を作製し、JIS K7244に準拠してねじり剪断法により、下記の条件で測定した。
・測定装置:レオメトリック社製、動的粘弾性測定装置「DYNAMIC ANALYZER RDAII」
・周波数 :1Hz
・温度 :23℃、80℃
【0077】
【表2】
【0078】
[被着体塗膜の作製]
電着プライマー及び中塗り塗料を塗装したポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの板に、自動車用2液型ポリウレタン系上塗り塗料(商品名:クオーツクリアーZ、関西ペイント社製)を100質量部、マルチ硬化剤を40質量部混合したもの)を、乾燥後の厚さが約20μmになるように吹き付け、60℃で30分間乾燥させ、さらに室温で30分間放置して(不完全硬化)塗膜を形成させた。
【0079】
上記の方法で作製した被着体塗膜に、上記実施例1〜8の粘着シート1〜8を貼付し、室温及び80℃で24時間放置後、室温まで冷却し、粘着シートを剥離し、塗膜の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
【0080】
(膨潤)
膨潤が全くない場合を「◎」、わずかな膨潤が認められるが、ほとんど目立たない場合を「○」、膨潤が認められる場合を「×」として評価した。評価結果を第3表に示す。
【0081】
(糊残り)
シート貼合部の糊残りが目視で観察されない場合を「◎」、シート貼合部の糊残りが若干目視で観察されるが、容易に拭き取ることができる場合を「○」、シート貼合部の糊残りが目視で観察される場合を「×」として評価した。評価結果を第3表に示す。
【0082】
(白ボケ)
白ボケを確認できない場合を「◎」、白ボケを確認できるが、拭き取りにより確認できなくなる場合を「○」、白ボケを確認でき、拭き取り後、屋外に1週間放置後も確認できる場合を「×」として評価した。評価結果を第3表に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
第3表より、実施例1〜8の粘着シートは、「膨潤」、「糊残り」及び「白ボケ」のいずれも生じていないことがわかる。
- 【公開番号】特開2012−25921(P2012−25921A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【発明の名称】塗膜保護用再剥離型粘着シート
- 【出願番号】特願2010−168844(P2010−168844)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
- 【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
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